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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
彼女たちは不景気が続くと、「湯銭もなくなる」そうで、厳冬でない限りは川へはいって躯を洗い、また髪までも洗う。土堤の上は人が往来し、川にも通船やべか舟がのぼり下りしている。しかし彼女たちは少しもたじろがないばかりか、逆に躯の屈伸や捻転動作を誇張し、まばゆいばかりに野性の誘いを放散してみせる。人たちも土地の者である限りは、決して驚いたり顔を赤くしたりするようなことはない。若い漁師や通船の水夫たちは、ごくあたりまえに立停って、彼女たちと率直に会話をとり交わすのであった。
――おうれ、てんで縹緻あげたじゃねえか、お花。
――いいくらかげんのことを云って、むりすんなえ**なあこ。
――嘘じゃあねえまったくに縹緻あげただぞ。
――顔ばっか見るふりいして、ほんとはここが見てえだべ、ここがよ。
そして彼女たちは、腰部前面の或る部分をひたひたと手で叩く、という場面は極めて尋常に見ることができた。これについていつか、三十六号船の船長のブルさんは、殆んど失明しかかっている眼を仔細ありげにまたたきながら、次のように穿った注を加えたことがあった。
――あれは湯銭がねえだけじゃあねえ、半分は客を呼ぶためもあるだよ。