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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

貝殻を運んで来た者も、もう馴れているので、あまり口はきかないし、事務員も殆んど無言のままだ。伝票を貰った缶詰工場の雇人は箱車を曳いて帰り、こちらの二人は事務所へはいって扉を閉める。ほかに石灰を買いつけに、月に一度ずつ仲買人が来るが、これもなが話はしていない。オート・バイがやかましい音をふり撒きながらやって来、用談を済ませるとすぐに、またオート・バイのやかましい音と、青白い排気ガスをふり撒きながら去ってゆく。こうして退社時間になると、かれらは次つぎと黙って帰り、最後に工場主が、表の扉の鍵を掛けて去るのであった。

工場は木造のトタン屋根で、建坪は十五メートルに三十メートルくらい。高さは屋根の上の換気窓まで、約十メートルほどあった。内部は二重の板張りで、貝を焼く窯が三基並んでい、おのおの貝殻を投げ入れる口と、焼きあげて出来た石灰を掻き出す口と、それらの下に、薪を燃やす大きな焚口が付いていた。

工場の外部もそうであるが、内部はもっと粉塵がひどく、柱も板壁も、踏段も床板も、まっ白に石灰がこびり着いているし、あたりには焼ける貝殻の微粒粉が、濃霧のようにたちこもっていて、二フィートはなれた人影もおぼろげにしか見えなかった。