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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
ふざけるとはなんだ、とかもが云った。しっかりしなよ、このしと、とおかっちゃんはかもの背中を殴打した。もう二度もあっちへいったじゃないか、忘れたのかいこのしと。二度もだって、とかもは考えこんだ。躯をぐらぐらさせながら、どうかしてその記憶をたぐりだそうとするようだったが、やがてそれにもくたびれたとみえ、唸り声をあげながらぶっ倒れてしまった。女たちは箸が倒れたほどにも思わなかった。うたう者、踊る者、悪口のやりとり、つかみあい、和解のコップ酒。そしてまた踊る者、うたう者、悪口のむし返しから髪の毛のりあい、という底抜けに活溌な騒ぎが続いた。
かもはなにも知らずに熟睡していたが、揺り起こされてみると、夜が明けてい、自分が座蒲団を枕にごろ寝をしていることに気づいた。揺り起こしたのはおかっちゃんで、その脇には女主人が、勘定書を持って坐っていた。女主人はいうまでもなくおせいちゃんの母親であるが、年はそれほどでもない筈なのに、あたまはすっかり白髪だったし、痩せていて皺だらけで、これに総入れ歯を外して睨まれると、どんなにあらくれた蒸気乗りでもちぢみあがる、といわれていた。