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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

、第4水準2-78-20)だの、堀もそうだし、沖へも出てみるがいいだ、それにはこの舟さえあれば用が足りるだよ」

まあ見てくれと云って、老人は伏せてある青べかをひき起こした。それは極めてすばやく、声をかける隙もない動作だった。

「ほれ見せえま」と老人は云った、「まっさらとは云えねえが、造ってからまだ七年にしかなんねえ、大事にしろばまだ十五年や二十年はたっぷり使えるだ」

私は自分の考えを述べようとした。

「値段もまけるだよ」と、老人は喚きたてた、「蒸気河岸の先生のこったからよ、思いきって五までまけるだ、たった五だ」

私が答えると、老人は片手を出した。

「タバコ」と老人は云った。

私はタバコとマッチを渡した。

「じゃあ、なんだ」と老人はタバコを一本抜いて火をつけ、タバコの箱はふところへ入れ、マッチだけを返しながら喚いた、「先生のこったから思いきって四にすべえ、四だ」

私が答えると、老人はタバコを地面でもみ消し、残りを耳にはさみながら喚きたてた。私は長の顔や、軽蔑しきった口ぶりを思いだしたが、同時に、自分が老人に縛りあげられ、ぬけ出すことのできない罠にかかったことを悟った。