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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「そうさな」彼は蛤の一つを取って、それをじっと凝視した、「――売ってもいいだよ、売るためにこうやって並べてるだからな、売ってもいいだが」
私は辛抱づよく待った。彼はその一つの蛤を丹念にしらべてから、やおら、すぼめた眼で私を見あげた。
「幾ら欲しいだね」と彼は云った。
私は必要な額を答えた。
彼は梅干を舐めたような顔つきで、蛤を六個だけ選び分けた。数は正確にいって六個、しかもその一つ一つを、まるで真珠でもはいっていはしないかと疑うように、精密に、入念にしらべたうえ、選び分けたのであった。
「蒸気河岸の先生だからな」と彼は自分の情の脆さに自分ではらを立てたように云った、「――しょあんめえ、まけとくだよ」
私は少年たちの顔つきの変化を見て、そのときのことを思いだしたのであった。
「売んか、な」と少年の一人がなかまに云った、「売んべや、な、かんぷり」
かんぷりと呼ばれた少年は洟を啜り、上わ眼づかいに私を見、またバケツの中の鮒たちを見た。その少年は船宿「千本」の長の同級生で、背丈が小さく、躯も痩せているが、頭だけが大きく、しかも鉢がひらいていた。かんぷりとはその木槌あたまに付けられた仇名で、つまり「かぶり」