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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

――そういう話をうまく聞くには、相手によって二種類の聞きかたがあるようだ。或る者はこっちが乗り気になって、強い関心を示さなければならないし、他の者は反対に、聞くような聞かないような、平静な態度を保つほうがよい。この選択を誤ると、しばしばいい話を聞きそこなうようである。――私は幸山船長が後者に属するように感じたのだが、その直感は外れなかったとみえ、船長はなんの警戒心も起こさず、静かにゆっくりと語り続けた。

話は単純なものであった。

船長は十八歳のとき初恋をした。相手は新堀川の小さな雑貨屋の娘で、名はお秋、年は彼より一つ下であった。その恋はあどけないほど幼く、けれどもあたたかい、きれいなものであったが、きれいなままで、三年あまり続いて終りになった。二人の気持が変ったのではなく、娘の親がかれらの仲を裂いたのである。――その父親というのはなかなか切れる男で、芦畑を作ることを思いつき、県からその許可を取ると、根戸川の下流から浦粕の東の浜へかけて、広大な地域の権利を手に入れた。葛飾から浦粕一帯は海苔の産地として知られている、したがって、海苔を漉くのに使う海苔簾(約二十センチ四方ほどの大きさで、細い芦の軸で編んだ物)だけでも、その需要は信じがたいほど多量であり、その他の分も加えると、どんなに広大な芦畑を作っても、作り