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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

お兼は子を産まないためか、肌の艶もよく、浮気性の女に共通の嬌めかしさ、誘惑的な声と身ぶり、言葉よりずっと明確に意志を伝える眼つき、などをもっていた。それは洗練されたものではなく、生れつき身についたものであるし、実際にはこの土地ではそんな武器を使う必要は少しもなかった。

――お兼あまにどれだけ男がいるか、本当に知っているのは亭主のしっつぁんだけだ。

土地の人たちはそう云っていた。真偽のほどはわからないが、お兼と寝た男は、きまってしっつぁんの訪問を受ける。べつに文句をつけに来るのではない、相手の男を呼び出すと、ぐあい悪そうにもじもじして、「一杯飲ましてくれねえかね」と云う。相手が幾らか出せば貰うし、ないよと云えば温和しく帰るだけであった。

助なあこの恋は、一と月ばかり続いただけで、無慚にうち砕かれた。或る夜、芳野の漉き小屋の中で、彼は怒りのためにふるえながらお兼をなじった。彼はお兼がほかの男たちとも寝る、ということを聞いたのである。

「そんなこといいじゃないの」と云ってお兼は助なあこを抱きよせようとした、「あたしが本当に好きなのはあんた一人だもの、浮世はままならないもんなのよ」