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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
私はまた質問した。
「海軍なんかいきゃあしねえだ」と大伍船長が云った、「陸軍で輸卒をしたっけだが、あとは土方をやったり缶詰工場に雇われたり、海苔のひび運びをしたりしていただ、それが何年めえになるだかな」
「七年めえだ」と秋葉エンジナーが云った、「幸山船長が船を貰ってやめた年だったべえ、暴風雨で高汐が来て、大蝶丸が大三角へ乗りあげたあとのことさ」
そのとき「兵曹長」は出稼ぎにいっていた。本当の名はささやん、左三郎とでも書くのだろうか、出稼ぎがどこへなにしにいったものか、いまではもう思いだすことができない。その留守ちゅうに、妻と四人の子が急死した。たしか赤痢だと聞いたように覚えているが、ささやんには連絡がつかず、出稼ぎから帰るのを待つよりしかたがなかった。
「彼はたいへんな子煩悩でしてね」と高品さんが云った、「帰って来てそれを聞くと、いっぺんに気がぬけたようになって、半月ばかりぼんやりしていました」
それから町役場へでかけていって、兵事係にこう云った。
――自分は海軍兵曹長で、年金と恩給が来ることになっているが、まだその通達は来ておらんか。
兵事係は冗談を云っているのだと思って、まだ来ていないと答えた。