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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「世に理のなき妖術などがあろうか。武夫たるものが、幻妖の術に怖れて、木の根にすがり、大地を這い、戦意を失うとは、何たるざまぞ。すすめや者ども、関羽の行く所には妖気も避けよう」

と大声で鼓舞したが、

「妖術にはかなわぬ。あたら生命をわざわざおとすようなものだ」

と、朱雋の兵は、なんといっても前進しないのである。

聞けば、この高地へ向った官軍は、これまでにも何度攻めても、全滅になっているというのであった。黄巾賊の大方師張角の弟にあたる張宝は、有名な妖術つかいで、それがこの高地の山谷の奥に陣取っているためであるという。

そう聞くと張飛は、

「妖術とは、外道魔物のする業だ。天地闢けて以来、まだかつて方術者が天下を取ったためしはあるまい。怖じる心、おそれる眼、わななく魂を惑わす術を、妖術とはいうのだ。怖れるな、惑うな。――進まぬやつは、軍律に照らして斬り捨てるぞ」

と、軍のうしろにまわって、手に蛇矛を抜きはらい、督戦に努めた。

朱雋の兵は、敵の妖術にも恐怖したが、張飛の蛇矛にはなお恐れて、やむなくわっと、黒風へ向って前進しだした。

三

その日は、天候もよくなかったに違いないが、戦場の地勢もことに悪かった。