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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页
五
「謝す。謝す。――王允司徒、ではこの美女は、氈車に乗せて連れ帰るぞ」
董卓は、ほとんど、その満足をあらわす言葉も知らないほど歓んで、貂蝉を擁して、車へ移った。
五
王允は、心のうちで、しすましたりと思いながら、貂蝉と董卓の車を丞相府まで送って行った。
「……では」と、そこの門で、董卓に暇を乞うていると、ふと、氈車の内から、貂蝉のひとみが、じっと、自分へ、無言の別れを告げているのに気づいた。
「では、これにて」
王允は、もういっぺん、くり返して云った。それは貂蝉へ、それとなく返した言葉であった。
貂蝉のひとみは、涙でいっぱいに見えた。王允も、胸がせまって、長くいられなかった。
あわてて彼は、わが家のほうへ引っ返してきた。すると、彼方の闇から、二列に松明の火を連ね、深夜を戛々と急いでくる騎馬の一隊がある。
近づいてくると、その先頭には赤兎馬に踏みまたがった呂布の姿が見えた。――はっと思うまもなく、呂布は、王允の姿を見つけて、
「おのれ、今帰るか」
と、馬上から猿臂を伸ばして、王允の襟がみをつかみ大の眼をいからして、
「よくも汝は、先日、貂蝉をこの呂布に与えると約束しておきながら、こよい董太師に供えてしまいおったな。