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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

二

はやく帰って顔を見せてやるがよい」

「えっ。では母は、留守中に、病気で寝ておりますか」

劉備はにわかに胸さわぎを覚え、驢を急がせて、関門から城内へ馳けた。

久しく見ない町の暮色にも、眼もくれないで彼は驢を家路へ向けた。道幅の狭い、そして短い宿場町はすぐとぎれて、道はふたたび悠長な田園へかかる。

ゆるい小川がある。水田がある。秋なのでもう村の人々は刈入れにかかっていた。そして所々に見える農家のほうへと、田の人影も水牛の影も戻って行く。

「ああ、わが家が見える」

劉備は、驢の上から手をかざした。舂く陽のなかに黒くぽつんと見える一つの屋根と、そして遠方から見ると、まるで大きな車蓋のように見える桑の木。劉備の生れた家なのである。

「どんなに自分をお待ちなされておることやら。……思えば、わしは孝養を励むつもりで、実は不孝ばかり重ねているようなもの。母上、済みません」

彼の心を知るか、驢も足を早めて、やがて懐かしい桑の大樹の下までたどりついた。

二

この桑の大木は、何百年を経たものか、村の古老でも知る者はない。

沓や蓆をつくる劉備の家――と訊けば、あああの桑の樹の家さと指さすほど、それは村の何処からでも見えた。