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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

五

「安んぜよ、もうわが一命は無事なるを得た。だが一体、そちは何者だ。そして如何なるわけでかくまで身に代えて、予を守護してくれたか」と、訊ねた。

すると、傷負の勇士は、

「――されば、それがしは先年、楚城の夜宴で、王の寵姫に冠の纓をもぎ取られた痴者です」

と、にこと笑って答えながら死んだという。

――李儒は、そう話して、

「いうまでもなく、彼は、荘王の大恩に報じたものです。世にはこの佳話を、絶纓の会と伝えています。……太師におかれても、どうか、荘王の大度を味わってください」

董卓は、首を垂れて聞いていたが、やがて、

「いや、思い直した。呂布の命は助けておこう。もう怒らん」

翻然と、諫めを容れて去った。

五

李儒はかねて、呂布が何を不平として、近ごろ董卓に含んでいるか、およそ察していたので、

――困ったものだ。

と、内心、貂蝉に溺れている董卓にも、それに瞋恚を燃やしている呂布にも、胸を傷めていた折であった。

それゆえ、「絶纓の会」の故事をひいて、諄々と、諫めたところ、さすが、董卓も暗愚ではないので、

「忘れおこう、呂布はゆるせ」と、釈然と悟った容子なので、これ、太師の賢明によるところ、覇業万歳の基であると、直ちに、呂布へもその由を告げて、大いに安心していた。