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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

ただ何太后だけは、盧植の手にひき留められた。

折ふし、宮中各所の火災を、懸命に部下を指揮して消し止めていた校尉曹操に出会ったので、ふたりは、

「新帝のご帰還あるまで、しばし、大権をお執りくだされたい」

と請い、一方諸方に兵を派して、新帝と陳留王の後を追わせた。

洛陽の巷にも火が降っていた。兵乱は今にも全市に及ぶであろうと、家財商品を負って避難する民衆で混乱は極まっている。その中を――張譲らの馬と、新帝、皇弟を乗せた輦は、逃げまどう老父を轢き、幼子を蹴とばして、躍るが如く、城門の郊外遠くまで逃げ落ちてきた。

けれど、輦の車輪はこわれ、張譲らの馬も傷ついたり、ぬかるみへ脚を入れたりして、みな徒歩にならなければならなかった。

「――ああ」

帝は、時々、よろめいた。

そして大きく嘆息された。

かえりみれば、洛陽の空は、夜になってまだ赤かった。

「もう少しのご辛抱です」

張譲らは、帝を離すまいとした。帝を擁することが自分らの強味だからである。

草原の果てに、北山が見えた。夜は暗い。もう三更に近いであろう。すると一隊の人馬がおって来た。張譲は観念した。追手と直感したからである。