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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

控えろと。――そういう者は誰だっ」と眼をみはった。

「おまえこそ、名をいえ」

こういって馬を前へ出してきたのは、皇弟の陳留王であった。帝よりも年下の紅顔の少年なのである。

「……あっ。皇弟の陳留王でいらっしゃいますな」

董卓も、気がついてあわてて、馬上で礼儀をした。

陳留王は、あくまで頭を高く、

「そうだ。そちは誰だ」

「西涼の刺史董卓です」

「その董卓が、何しに来たか。――聖駕をお迎えに参ったのか、それとも奪い取ろうという気で来たか」

「はっ……」

「いずれだ!」

「お迎えに参ったのでござる」

「お迎えに参りながら、天子のこれにましますに、下馬せぬ無礼者があるかっ、なぜ、馬をおりん!」

身なりは小さいが、王の声は実に峻烈であった。威厳に打たれたか、董卓は二言もなく、あわてて馬からとびおりて、道のかたわらに退き、謹んで帝の車駕を拝した。

陳留王は、それを見ると、帝に代って、

「大儀であった」

と、董卓へ言葉を下した。

鹵簿は難なく、洛陽へさして進んだ。心ひそかに舌を巻いたのは董卓であった。天性備わる陳留王の威風にふかく胆を奪われて、

「これは、今の帝を廃して、陳留王を御位に立てたほうが……?」