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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「近頃、寄手の後方に変りはないか」

「敵の糧道はどうだ」

「ここ一ヵ月半ばかり、糧車は通ったことはありません」

李粛はうなずいて、もう一名の細作へ向い、

「敵の馬は、よく肥えているか」

「このごろ妙に痩せてきたように見られます」

「敵の兵隊は、どんな歌を謡うか」

「慕郷の歌をよく謡っています」

「よろしい」

細作たちを退けると、李粛はすぐに、大将華雄に会って、一策を献じた。

「寄手の孫堅を生擒ってしまう時がきました。こよい手前は、一軍をひいて間道から敵の後ろへまわり、不意に夜討ちをかけますから、将軍は火光を合図に関門をひらき、正面から一挙に押し出してください」

「成功の見込みがあるかね」

「ありますとも。てまえが探り得たところでは、孫堅はなにか疑われて、後方の味方から兵糧の輸送を絶たれているようです。そのため兵気はみだれ、戦意は昂らず、ここ内紛を醸しておるようです。――今こそ、孫堅の首は、手に唾して奪るべしです」

「そうか。――今夜は月明だな」

「絶好な機ではありませんか」

「よし、やろう」

秘策は、夕方までに一決した。

その夜、李粛は、一軍の奇兵をひいて、月明りをたよりに、間道をすすみ、梁東の部落を本拠に布陣している寄手の背後へまわって、突如、喊の声をあげた。