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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页
曹操は、臣下の狂喜している様を見て、
「アア我誤てり。――かりそめにも、将たる者は、死を軽んずべきではない。もしゆうべから暁の間に、自害していたら、この部下たちをどんなに悲しませたろう」と、痛感した。
「訓えられた。訓えられた」と彼は心で繰返した。
敗戦に訓えられたことは大きい。得がたい体験であったと思う。
「戦にも、負けてみるがいい。敗れて初めて覚り得るものがある」
負け惜しみでなくそう思った。
一万の兵、余すところ、わずか五百騎、しかし、再起の希望は、決して失われていない。
「ひとまず、河内郡に落ちのびて、後図を計るとしよう」
曹操はいった。
夏侯惇、曹仁たちも、
「それがよいでしょう」
兵馬に令してそこを発った。
一竿の列伍は淋しく河内へ落ちて行った。山河は蕭々と敗将の胸へ悲歌を送った。生れながら気随気ままに育って、長じてもなお、人を人とも思わなかった曹操も、こんどという今度はいたく骨身に徹えたものがあるらしかった。
途すがら、耿々の星を仰ぐたびに、彼はひとり呟いた。
「――君は乱世の奸雄だと、かつて予言者がおれにいった。おれは満足して起った。よろしい、天よ、百難をわれに与えよ、奸雄たらずとも、必ず天下の一雄になってみせる」