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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「もう一曲」と、望んだ。

貂蝉が再び起つと、教坊の楽手は、さらに粋を競って弾じ、彼女は、舞いながら哀々と歌い出した。

紅牙催拍シテ燕ノ飛ブコト忙シ

一片ノ行雲画堂ニ到ル

眉黛促シテ成ス遊子ノ恨ミ

臉容初メテ故人ノ腸ヲ断ツ

楡銭買ワズ千金ノ笑

柳帯ナンゾ用イン百宝ノ粧イ

舞罷ミ簾ヲ隔テテ目送スレバ

知ラズ誰カコレ楚ノ襄王

眼を貂蝉のすがたにすえ、歌詞に耳をすましていた董卓は、彼女の歌舞が終るなり、感極まった容子で、王允へ云った。

「主。あの女性は、いったい誰の女か。どうも、ただの教坊の妓でもなさそうだが」

「お気に召しましたか。当家の楽女、貂蝉というものですが」

「そうか。呼べ」と、斜めならぬ機嫌である。

「貂蝉、おいで」

王允は、さし招いた。

貂蝉は、それへ来て、ただ羞恥っていた。董卓は、杯を与えて、

「幾歳か」と、訊いた。

「…………」

答えない。

貂蝉は、小指を、唇のそばの黒子に当てて、王允の陰に、うつ向いてしまった。

「ははは、恥かしいのか」

「たいへんな羞恥み性です。なにしろめったに人に接しませんから」

「いい声だの。すがたも、舞もよいが。……主、もう一度、歌わせてくれないか」