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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页
呂布は、うつろな眼を、うしろへ向けたが、その人の顔を見て、初めてわれにかえった。
「おう、あなたは王司徒ではないか」
王允は、微笑して、
「なぜ、そんな意外な顔をなされるのか。ここはそれがしの別業の竹裏館のすぐ前ですのに」
「ああ、そうでしたか」
「董太師が※(「眉+おおざと」、第4水準2-90-21)塢へお還りと聞いたので、門前に立ってお見送りしたついでに、一巡りしようかと驢を進めて来たところです。――将軍は、何しに?」
「王允、何しにとは情けない。其許がおれの苦悶をご存じないはずはないが」
「はて。その意味は」
「忘れはしまい。いつか貴公はこの呂布に、貂蝉を与えると約束したろう」
「もとよりです」
「その貂蝉は老賊に横奪りされたまま、今なお呂布をこの苦悩に突きおとしているではないか」
「……その儀ですか」
王允は、急に首を垂れて、病人のような嘆息をもらした。
「太師の所行はまるで禽獣のなされ方です。わたくしの顔を見るたびに、近日、呂布の許へ貂蝉は送ると、口ぐせのようにいわるるが、今もって、実行なさらない」
「言語道断だ。今も、貂蝉は、車のうちで泣いて行った」
「ともかく、ここでは路傍ですから……、そうだ、ほど近い私の別業までお越し下さい。