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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

うわさに聞いていた通り、私心のない名太守であった。世を憂い、民を愛する仁人であった。

けれど劉備玄徳は、なお、

「自分はあなたを扶けに来た者です。若い力はあっても、老台のような徳望はまだありません。徳のうすい者を太守に仰ぐのは、人民の不幸です。乱の基です」

と、どうしても、彼もまた、固辞して肯き容れなかった。

張飛、関羽のふたりは、彼のうしろの壁ぎわに侍立していたが、

「つまらない遠慮をするものだ。どうも大兄は律義すぎて、現代人でなさ過ぎるよ、……よろしいと、受けてしまえばよいに」と、歯がゆそうに、顔見合わせていた。

老太守の熱望と、玄徳の謙譲とが、お互いに相手を立てているのに果てしなく見えたので、家臣糜竺は、

「後日の問題になされては如何ですか。何ぶん城下は敵の大軍に満ちている場合ではあるし」

と、側から云った。

「いかにも」

二人もうなずいて、即刻、評議をひらき、軍備を問い、その上で、一応はこの解決を外交策に訴えてみるも念のためであるとして、劉玄徳から曹操へ使いを立て、停戦勧告の一文を送った。

曹操は、玄徳の文を見ると、

「何。……私の讐事は後にして、国難を先に扶けよと。