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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「おまえは良妻だ。わしは常に感謝している」

「嘘ばかり仰っしゃい」

「冗談は止めて。――時に、郭※(「さんずい+巳」、第3水準1-86-50)の夫人を訪問して、ひとつ、おまえの口先であの人の嫉妬をうんと焚きつけてくれないか」

「それがなんの為になるんですか。他家の奥さんを悋気させることが」

「国家のためになるのだ」

「また、ご冗談を」

「ほんとにだ。――ひいては漢室のお為となり、小さくは、おまえの良人楊彪の為にもなることなのだから」

「分りません。どうしてそんなつまらないことが、朝廷や良人の為になりますか」

「……耳をお貸し」

楊彪は、声をひそめて、君前の密議と、意中の秘策を妻に打明けた。

楊彪の妻は、眼をまろくして、初めのうちは、ためらっていたが良人の眼を仰ぐと、くわっと、恐ろしい決意を示しているので、

「ええ。やってみます」と、答えた。

楊彪は、圧しかぶせて、

「やってみるなんて、生ぬるい肚ではだめだ。やり損じたら、わが一族の破滅にもなること。毒婦になったつもりで、巧くやり終せてこい」と、云い含めた。

翌る日。

彼の妻は、盛装をこらし、美々しい輿に乗って、大将軍郭※(「さんずい+巳」