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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「商売は」

「蓆を織ったり簾をつくって、売っておりますが」

「なんだ、行商人か」

「そんなものです」

「だが……」

と、役人は急にむさい物からのくように襟がみを放して、劉備の腰の剣をのぞきこんだ。

「この剣には、黄金の佩環に、琅の緒珠がさがっているのではないか、蓆売りには過ぎた刀だ。どこで盗んだ?」

「これだけは、父の遺物で持っているのです。盗んだ物などではありません」

素直ではあるが、凛とした答えである。役人は、劉備青年の眼を見ると、急に眼をそらして、

「しかしだな、こんなところに、半日も坐りこんで、いったい何を見ておるのか。怪しまれても仕方があるまい。――折も折、ゆうべもこの近村へ、黄巾賊の群れが襲せて、掠奪を働いて逃げた所だ。――見るところ大人しそうだし、賊徒とは思われぬが、一応疑ってみねばならん」

「ごもっともです。……実は私が待っているのは、今日あたり江を下ってくると聞いている洛陽船でございます」

「ははあ、誰か身寄りの者でもそれへ便乗して来るのか」

「いいえ、茶を求めたいと思って。――待っているのです」

「茶を」

役人は眼をみはった。

彼らはまだ茶の味を知らなかった。