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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

何もない。はははは」

「では、せっかく遠くから来て、おかねにも換えられずに帰るんですか」

「帰ろうと思って、ここまで来たら、偉い物を見たよわしは」

「なんですか」

「お宅の桑の樹さ」

「ああ、あれですか」

「今まで、何千人、いや何万人となく、村を通る人々が、あの樹を見たろうが、誰もなんともいった者はいないかね」

「べつに……」

「そうかなあ」

「珍しい樹だ、桑でこんな大木はないとは、誰もみないいますが」

「じゃあ、わしが告げよう。あの樹は、霊木じゃ。この家から必ず貴人が生れる。重々、車蓋のような枝が皆、そういってわしへ囁いた。……遠くない、この春。桑の葉が青々とつく頃になると、いい友達が訪ねてくるよ。蛟龍が雲をえたように、それからここの主はおそろしく身の上が変ってくる」

「お爺さんは、易者かね」

「わしは、魯の李定という者さ。というて年中飄々としておるから、故郷にいたためしはない。山羊をひっぱって、酒に酔うて、時々、市へ行くので、皆が羊仙といったりする」

「羊仙さま。じゃあ世間の人は、あなたを仙人と思っているので?」

「はははは。迷惑なはなしさ。何しろきょうはよろこばしい人とはなし、珍しい霊木を見た。