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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

「劉君。貴公は、本心を人に秘して、この張飛へも、深くつつんでおられるな。いや、そうだ。張飛をご信用なさらぬのだ」

「本心? ……私の本心は今いった通りです。なにを、あなたにつつむものか」

「しからば貴公は、今の天下を眺めて、なんの感じも抱かれないのか」

「黄匪の害は見ていますが、小さい貧屋に、ひとりの母さえ養いかねている身には」

「人は知らず、張飛にそんなことを仰っしゃっても、張飛はあなたを、ただの土民と見ることはできぬ。打明けて下さい。張飛も武士です。他言は断じて致さぬ漢です」

「困りましたな」

「どうしても」

「お答えのしようがありません」

「ああ――」

憮然として、張飛は、黒漆の髯を秋かぜに吹かせていたが、何か、思い出したように、突然、佩いている剣帯を解いて、

「お覚えがあるでしょう」と、鞘を握って、劉備の面へ、横ざまに突きつけていった。

「これはいつか、貴公から礼にと手前へ賜わった剣です。また、私から所望した剣であった。――だが不肖は、いつか尊公に再び巡り合ったら、この品は、お手もとへ返そうと思っていた。なぜならば、これは張飛の如き匹夫が持つ剣ではないからだ」