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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
かれらは季節ごとに来る遊覧客、――魚釣り、汐干狩り、海水浴など、遊びに来る都会の客たちから「うまくせしめる」習慣がついているので、その冷たく鈍い眼や、狡猾そうな口つきの裏には、いつでも朴訥な表情をつくり、あいそ笑いをする用意ができているのであった。――四月の末か五月のはじめころ、たぶん五月のはじめころであったろう、私は三本松のところで老人に捉まった。
三本松といっても、樹齢の古い松ノ木が一本しかない。ずっと昔は三本あったそうであるが、私の聞いた限りでは、それを自分の眼で見たという者はなかった。――堀の岸に横這いのかたちで枝を伸ばしている。その松ノ木の脇に、水から揚げて久しいべか舟が伏せてあった。ずいぶんまえからそこにあり、私は通りかかるたびにそれを見た。べか舟というのは一人乗りの平底舟で、多く貝や海苔採りに使われ、笹の葉のような軽快なかたちをしてい、小さいながら中央に帆桁もあって、小さな三角帆を張ることができた。しかし、そこに伏せてあったのは胴がふくれていてかたちが悪く、外側が青いペンキで塗ってあり、見るからに鈍重で不恰好だった。
「あのぶっくれ舟か」