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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
――よし、と私は云った。そこでビールを下に置いてくれ、みんなだ、いや、みんな持っているのを下に置くんだ。
彼女たちはげらげら笑い、私がなにか珍しい芸当を演じてみせるとでも思ったらしく、左右の手に持っているビール壜を、いさみ立ったような身ぶりで下に置いた。私はむろん芸当などしてみせるつもりはない、右側にいる小柄な女中に向って、君がビールを一本だけ持ってこっちへはいって来い、「君だけ」であり、ビールは「一本だけ」であり、ほかのお嬢さんもビールも絶対に不要である、と極めて明確に宣言した。
――まあこの人は、と選まれた小柄な一人が云った。そんな憎ったらしいこと云って承知しねえだぞ。
そうしてこっちへ踏み込んで来ると、私を押し倒して馬乗りになった。両手で私の手を押え、両の腿で私の胴を、そしてその腰部で私の腰部をというぐあいに、字義どおりの馬乗りであって、若い女性からそんな挑戦を受けたことのない私は、その屈辱的な姿態の恥ずかしさに狼狽し、はね返そうとしてできるだけのことをやってみた。あとで聞いたところ、彼女は十六歳だそうで、しかも五尺そこそこの短躯であるのに、信じられぬほど逞しい固太りの腕や、火のように熱い太腿の力は無類なもので、私のあらゆる反抗に対してびくともしなかった。