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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
と和助が云った、「あとは医者にやってもらうんだ、しっかりしろよ銀」
「おらもうだめだ」と銀公は呻き、且つ泣いた、「死ぬめえにおっかあに会いてえよう」
「よしおっかあに知らしてやるぞ」と漁師の一人が云った、「おらがすぐに突っ走ってって、おっかあを駐在所へ伴れてくからな、おっかあの顔を見るまでは死ぬんじゃねえぞ」
そしてその漁師は「突っ走って」いった。
銀公の演技を中心としたこの一と幕の芝居は、少なからずあくどいものであった。それは若いその私服警官にもわかったに違いない。けれども自分のゆきすぎた行動のために、芝居とわかっていながら、彼もまたそれに同調することを拒むわけにはいかないようであった。
「いいか」と私服は銀公の顔を覗きこんで訊いた、「歩けるか」
眼がちらくらして立てねえ、と銀公が答え、すると若い船頭の一人が、おらがおぶってやらあ、と背中を向けて跼んだ。ふだん評判のかんばしくない銀公が、いまは英雄のように、あるいは庶民を代表する犠牲者のように、人々の愛と同情を集め、尊敬心さえもかき立てていた。若い船頭の背に負われた銀公は、私服警官に付き添われて「千本」