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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

こういう場合には私は無関心をよそおうことにしている。この種の女性たちはいちように嘘言癖をもっていて、その身の上話の九分九厘までは作りごとであり、読んだ小説か母もの映画のバリエイションときまっていた。ところが、こちらで興味を示さず、聞きたくないふうをよそおっていると、約三〇パーセントぐらいの割合で、本当の身の上を語りだすことがあった。

私は気乗りのしない口ぶりで質問し、栄子は肩をゆさぶった。

「先生もわかりきったこと訊くわね、このとおりあたいは生きてるよ」と栄子は云った、「飲ましてね」

私は黙って自分の酒を啜った。

「あたいぱあっとしたことが好きなのよ」と栄子は云った、「めしだって鬼の牙みたいにぱりっと炊いたのをさ、沢庵かなんかでざくざく茶漬にして掻っこむのが好きさ、やわっこいめしだのおじやなんぞ大っ嫌いさ、だからぱあっと心中しちゃう気になったのよ」

私はまた冷やかに訊いた。

「ああそのことか、ふふう」と栄子は鼻へぬける妙な笑いかたをした、「わかってるじゃないの、あたいこうしてここに生きてるんだもの、死ぬっくらい心中しちゃったら生きてられやしないでしょ、しっかりしてよ先生」