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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
という題で、二十枚ほどの短篇を発表していた。載せたのはアサヒグラフであって、そのじぶん編集を担当していた宮田新八郎の好意によるものだが、浦粕のノートから幾つか短篇小説にした中でも、留さんの話がもっとも事実に近かったからである。――私は自分をなだめた。留さんが小説などを読む可能性はない、少なくともアサヒグラフを読むような機会はないだろう、おちつけ、と自分をなだめた。にもかかわらず、留さんは「あれを読んだだ」と云った。
「おらんこと小説に書いたって」どんな闇夜でも黒く見えるという、石炭のような黒い顔に、てれくさそうな羞み笑いをうかべながら留さんは云った、「――高品さんのおかみさんがおらに呉れたで、読んだだよ」
「あれは」と私はいそいで云った、「あれは、つまり小説なんでね」
「おら大事に取ってあんよ」と留さんは私に構わず続けた、「一生大事にしておくだ」そしてさらに云った、「おら家宝にすんだよ」
そしてさも恥ずかしそうに、小さくなって事務所のほうへ去った。
留さんは少しも変っていなかった。秋山と森谷にあらましの事情を語り、乗った通船が竪川をはしりだしてから、私は沿岸の風景を眺めながら思った。