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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

留さんは年も取っていないようだし、人の好さもあのころのままらしい。おそらくはいまでも「頭があったけえ」などと云われ、女たちのいいかもになっているのであろう。そういう人間のことを小説に書いて、生活の資にするとは恥ずべき行為だ。留さんは恥ずかしそうな顔をしたが、自分こそ恥じなければならない筈だ、などと思い、浦粕へゆくのがにわかに重荷のように感じられた。

――誰と出会うかわからないぞ。

船宿「千本」の長少年、倉なあこ、芳爺さんはどうだろう。「SASE BAKA」とはっきり書いてしまったおすずは。ブルさんは。ごったくやの令嬢たち、幸山船長は。その他の多くの人たちと出会った場合、いったいどんなことになるだろうか。

できるだけ会わないようにしよう。

私はそう思った。これらの人たちをみんな小説に書いたわけではないが、留さんを書いたことは(留さんの口ぶりから察すると)相当ひろく伝わっていると考えなければならないし、ひがみっぽい性質の者は、どれを読んでも自分のことだと妄信するかもしれない。

「できるだけ人に会わないことだ」と私は船窓から外を眺めながら呟いた、「なるべく危険なところには近よらないようにしよう」