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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

と秋山が云った、「まるでごったくやじゃないか」

私が蒸気河岸にいたじぶん、秋山は二度ばかり来たことがあり、「天鉄」でめしも喰べたので、変化の差がはっきりわかったのであろう。私も興ざめた気持になり、手早くめしを片づけて外へ出た。そして蒸気河岸へ戻る途中、おたまの親たちに会ったのだ。

道からちょっとはいった、十坪ばかりの空地で、老夫妻が籠を作っていた。それは貝を掘るためのもので、籠は約一メートル四方、一方に砂へ打ち込むための鉄の歯があり、四メートルほどの杉の若木の棹がついていた。夫妻はどちらも白髪になっていて、着ぶくれた躯の背をまるくし、陽溜りでせっせと割り竹を捌いていた。

――おたまの母親だ。

父親のほうははっきりした印象はないが、母親のほうはすぐにそれとわかった。その人とは親しかったし、いろいろと世話にもなった。男の独りぐらしは不衛生なことが多いと云って、三日に一度は掃除に来てくれたし、野菜を喰べなければ躯に悪いからと、漬物をかかさず届けてくれたりした。それにおたま、――船宿「千本」の長とともに、そのこまっちゃくれのおたまも、土地のニュースをいろいろと報告しに来たものである。