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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

道も舗装されたのが縦横に通じてい、運転手君とわが友人で休みなしに論争が取り交わされた。

「そっちへゆくと千葉へいっちまうよ」とわが友人が注意する、「こっちの道だよ、こっちの道だと思うな、慥かにこっちだったと思うがな」それから自信をなくしたように云う、「ちょっと訊いてみて下さい」

わが若き友人はつねづね土地勘がいいと自任しているが、あまりに土地勘がいいためだろう、いっしょに車でどこかへゆくとき、しばしばとんでもない方向へと走らせ、間違ったことがわかっても「なに平気です、あれをぐるっと廻ればちゃんとゆけますよ」などとすましている。それはそうでしょう、道のあるところなら廻り廻ってゆけばたいてい目的地へ着くことができる。私はそんなとき心ひそかに、日本の国土の狭いことを感謝するのだが、――その日の運転手君もやがて、論争する煩に耐えないことを知り、わが友人の指導するままに左へ曲り、右に曲り、車からおりて人に訊いたうえ、あと戻りをし、というぐあいに温和しく云うことを聞いた。

こうして、タクシーはともかくも浦粕町に着いた。根戸川に架かった大きな鉄橋を渡るとき、私は車を停めてもらって、川の上流と下流を眺めやった。