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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

百幾十日もいっしょにいて、夫婦らしいことが一度もなかった。男として役に立たないから離縁して帰ったと、ゆい子自身が語ったというのである。

この種のゴシップはどこの土地でも広まりやすいものだが、ことに浦粕ではもっとも歓迎される特報で、たちまち少年少女のあいだにまで伝わってしまった。このこまっちゃくれた少年少女たちは、五郎さんの店の前を通るとき、声をそろえて喚いた。

「みそのでは幟もおっ立たない」

この町筋の商店は、店の脇にみな幟を立てているが、「みその」は店名を染めたがたん(軒へ陽除けのようにおろす幕で、夕方になると巻きあげ、朝になると紐を解いておろすのだが、そのときがたんと音がするので、子供たちはそう呼んでいた)があるだけで幟は立てなかった。かれらはそれにひっかけて五郎さんをからかい、わっと囃したてるのであった。

五郎さんはなかなか気がつかなかった。父親のほうが先にその噂を聞き、怒って五郎さんを問い詰めた。五郎さんはあまりのことに口がきけなかった。こんなひどいぺてんがあるだろうか、彼は怒りのために涙をこぼし、恥ずかしさのために吃りながら「砂のバリケード」