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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

もちろん勘定はごろさん持ちで、事の終ったあと、友人たちはその相手の華やかな女性に、首尾のいかんを問い糺した。

浦粕へ帰ってから、友人たちは却って否定的な気分になった。

「二時間でよ、おめえ」と一人が云った、「それも初めてだっていうだに、三度も幟がおっ立ったなんて考げえられっか」

「買収しただな」と他の一人が云った、「女に金轡を噛ましただ」

筆者である私が、この会話を現実に聞いたのである。場所は蒸気河岸の浦粕亭で、私は三十六号船の留さんとビールを飲んでい、その若者たち三人は隣りのテーブルで、焼酎を啜りながら話していたのだ。

こんどはこの噂が弘まるな。私はそう思って、五郎さんのために心が痛んだ。

浦粕第一の旦那衆である高品さんから、私はそれまでの事情を聞いていた。というのが、ゆい子のあとを早く貰うために、五郎さんの父親が高品さんの本家を訪ねて、詳しい仔細を語ったからである。――予想どおり、「買収した」という評判はすぐさま町じゅうに伝わり、父親はますます嫁捜しに熱中した。こういう重複した誹謗に取り巻かれて、五郎さんがどんな日々を送ったかということはわからない。