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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

と彼は釣りにでかけるときに云う、「鱸を拾いにいくべえか」

機械船を持てば自分でしょうばいができる。それまで彼は「松島」という船宿に属していたが、初めて独立し、客もかなり付いた。裏長屋に住んでいるので、まだ船宿の経営はできなかったが、どうやら二年も経てばその望みが実現しそうに思われた。そのとき、災難が起こった。――或る朝、彼は五番の澪木の沖で釣っていた。霧の深い日で、十メートル先も見えないくらいだったが、その中を一艘の大型機械船がやって来た。それは濃い霧の中を、まっすぐにこちらへ近づいて来る、エキゾスの音が明らかにそれを示していた。

「おーい」と源太は叫んだ、「ここに舟があるぞ、たのむよう」

エキゾスの音で大蝶丸だとわかった。大蝶丸なら安心であった。この辺が釣りの穴場で、いつも釣舟がいるということを、大蝶丸の者なら知っている筈だったから。源太はじっと船の交わるのを待った。けれども先方はまっすぐに近よって来、突然、霧を押しわけるようにして、源太の眼の前にあらわれ、その大きな舳先を源太の機械船の横腹へ突っかけた。

「おい」と源太は叫んだ、「待ってくれ」

だが彼の機械船は二つに割れ、彼は海の上へはねとばされた。