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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

いしとは汝とかおまえとかいうほどの意味であるが、源太は怒って巡査駐在所へゆき、次に市の本署から、県の警察本部まで訴えにいった。しかしどこでも彼のために動いてはくれなかった。

「証拠があるのか」とかれらは云った、「大蝶丸だというはっきりした証拠があるなら取り調べてやるが、証拠のないものはだめだ」

源太は船を調べればわかると云った。大蝶丸の舳先には衝突したときの傷がある筈だからと彼は主張した。

「機械船の舳先なんてものは」とかれらは一様に云うのであった、「どこかへぶっつけてたいてい傷のあるものだ、それでもおまえの船へぶっつけたという証拠の傷があるなら取り調べてやろう」

こういう経過を辿って、本署から浦粕町へ連絡があり、駐在所の巡査がいちおう大蝶丸を調べた。その船はもう古いので、舳先の水切には無数の傷があったけれども、これが源太の船と衝突した跡だ、などと立証できる箇所はなかった。船長もいちおう訊問されたが、あたまから否定した。

「おらあ五番の澪木なんぞに近よったこたあねえ」と船長は答えた、「あのときは東京へ缶詰を送り出した帰りで、まっすぐ根戸川の川口へはいっただ、船の者に訊けばわかるだよ」