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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

それからまたこうも云ったそうである、「源太が諄くそんなことを云うんなら、出るとこへ出てしろくろをつけべえ」

源太は頭を垂れた。

彼は出るところへ出たのだ。県の警察本部までゆき、金も地位もない者がどんな扱いを受けるかということを、自分ではっきりと経験した。そうして「大蝶」という顔役を背景にした船長が、出るところへ出るとすれば、その結果もまたわかりきったものであった。

源太の酒浸りが始まった。彼は堀東の助二郎の漁船へ乗ることになったが、漁から戻るとその足で酒屋へはいった。堀の山城屋という店で、塩か福神漬を摘みながら濁酒とか焼酎などを飲み、ぐでぐでに酔ってから家へ帰るのであった。――裏長屋の柱も傾きかかった家には、妻と娘が二人いた。上がお繁であり、下はまだ生れたばかりであった。帰って来た源太はむやみに喚きちらし、少しでもさからうと猛りたって、妻と娘を死ぬようなめにあわせた。

「うぬらもかたきだ」と彼はどなる、「寄ってたかっておらを踏みつけにしやあがる、さあ、くやしかったらおんだらの機械船を返してみろ」

「なんでも持ってけ」と彼はまたどなる、「こんな貧乏人の物が欲しけりゃあなんでも呉れてやる、さあ、手でも足でも頭でも持ってけつかれ、なんでも呉れてやるぞ」