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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

源太は気がぬけたようになった。漁にも出ず、酒を飲むでもなかった。部屋の隅にころがされて、泣き叫ぶ赤児の声も耳にはいらないのか、一日じゅう寝そべったまま、天床か壁をぼんやりと眺めていた。

或る日、源太は山城屋へ飲みに来た。彼は助二郎の帳面のつけで焼酎を呷り、いくらでも呷った。「逃げてみろ」と酔った源太は蒼い顔で笑いながら云った、「逃げられるものなら逃げてみろ、へ、いまに二人とも捉めえて、二人とも火祭りにしてくれるぞ」

そして、源太も出奔した。

お繁と乳呑み児の妹とは、こうして親たちに捨てられたのであった。

町では姉妹を引取ろうと云う者はなかった。お繁はその生立ちのため、人に対して好戦的であり、親から受けた病気で腫物が絶えず、それが汗と垢の匂いと入り混って、側へも寄れないほど臭かった。

町役場で二人の面倒をみることになったが、現実的にはなにもしなかった、あるいはできなかった、と云うのが正しいようである。お繁は役場へ近よらず、ごったくやとか洋食屋の裏をまわったり、墓場の供え物をあさったりして喰べ、夜になると、海苔漉き小屋であれ、消防のポンプ小屋であれ、どこかの納屋であれ、好きな場所で寝た。