Japanische Klassiker mit Furigana
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こどうひゃくわ
胡堂百話
野村 胡堂
Lesen Sie 胡堂百話 (こどうひゃくわ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 124.386 Zeichen · 248 Bildschirme
戦時中から戦後にかけては、新しく補充がきかないから、虎の子の三本ほどを、肌身はなさず大切にした。
軽井沢へも持って行ったし、伊東で仕事をするにも、この万年筆だった。汽車はすごく混んでいたし、手には大きなバッグを提げ、革のカバンを肩からななめに吊っていた。
熱海で乗りかえの時、誰かが触ったような気もしたが、伊東線に乗って気がつくと、カバンのかぶせぶたが、パクパクになっている。
「しまった!」
手をやってみると、案の定、万年筆がない。革のケースにはいっていたので、スリは、財布だと思ったのだろう。
専務車掌にとどけると、車掌は、私の顔を見てニヤリと笑った。
ちょうど帝銀事件の直後で、新聞は、連日、大きな見出しが続いていた。こういうような世の中に、たかが万年筆の二本や三本。わざわざ届けるのは、そりゃあ、おかしいかも知れませんよ。しかし、専務車掌ともあるものが、客に向かって笑わなくとも、いいじゃないですか。
だから、私は言ってやった。
「盗まれた品物は、むろん、大したものじゃありません。しかし、私にとっては、かけがえのないものでして……」
すると、車掌は、もう一度、ニヤリとした。