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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

半坊主の顔に、笑靨が泛いている。

「こらッ!」

思わず、剃刀の柄で、頭を撲った。

半坊主は、首をすくめた。そして神妙な顔を作っていた。

「これでよしっ」

鉄之丞は、縄を解いてやった。

そして、空俵でも捨てるように、庄次郎の襟がみを抓んで、

「どこへでも出て失せいっ」

裏庭から、藪道へと、突き出した。鋭いほど深い情けの声だった。

「あっ……」

庄次郎は、泥のついた掌を眺めた。それを着物でこすって、頭を撫でると、つるりとすべる。初秋の味がする。にわかに、うす寒いような……と思った。

早速、やぶ蚊が、一匹とまる。

頭の蚊をたたきながら、垣に添って、とぼとぼ歩きだした。生まれた屋敷を思うと、さすがに、惜別がふかい。

「おや?」

ふと、見ると、弟の八十三郎の書斎に二つの人影が、蝋燭をもって、何か、ごぞごそ掻き廻している。

父は、そんなところでないし、二人とも見馴れない男である。大小の鞘が、獣の尻尾みたいに障子に映っている。ゆらゆらと、蝋燭の灯と一緒に、影法師も、気味わるくうごくのだった。

(はてな?)

咄嗟に、彼は、大きな声を発して、今去った庭の方へ、呶鳴った。

「弟っ! 泥棒だぞッ、おまえの部屋に、泥棒が入ッているぞっ」