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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
丹波栗
一
「それはいいじゃないか」
伊藤俊輔が云う。
「そういう人材が、便乗しているのに、欠伸をさせておく法はない。刻下、天下の時局は、どんな人材でも払底を告げている際だ。早速、余興係りを命じては――」
というようなことから、露八は、三条実美や東久世通禧の前へ、ひっぱり出された。
天神様と、浅葱裏のお客様だ。露八は、そう見くびって、やれといわれるものを、何でも演ってのけた。
かっぽれ、一人万歳、博多のどんたく、仁王の真似、やねぶねの提灯。
「なるほど、人材じゃ」
大山格之助は、あきれていた。
三条公以下の五卿も、あごをはずして、笑っていた。そして、
「兵士にも、うまい芸人がおるものよのう」
感嘆を久しゅうする。
五卿が、露八を、何藩かの兵士とみたのも無理ではないのであった。供奉員が、露八の身装を見て、それでは不敬にあたるというので、兵隊服のだんぶくろを着せて出したからである。
春日丸が安治川に着いたのは、十二月二十六日だった。三軒家や四貫島や、天保山のあたりは、見物がたいへんだった。葭だか人間だかわからないほど両岸に市民が立っている。艦上には、三藩の兵が、捧げ銃をして、五卿は烏帽子直垂で立っていた。