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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

三

半蔵は、全身で、呶鳴った。

三

苦労人の叔父。粋な叔父。――その人よりほかに、父を宥めてくれる者はないと思って、使いを飛ばした弟の気持を、半蔵も照子も、実は、知っていた。心の裡で、掌を合わして、待っていた。

「成らん! 今度こそ、断じて、宥すことは相成らん!」

半蔵の頑張るのは、当然なる父の心にもない猛りだった。まア、まア、と押問答の揚句、処分は叔父に任せるとなった。そして、半蔵は一間の襖を閉めきった。

「お照っ。剃刀を持ってこいっ」

叔父は、下げ緒を解いて、片襷をかけた。

どうするのかと、怪しんでいると、庄次郎の頭をつかまえて、ゾリゾリと剃ってしまった。嫁も弟も、中間も、黙って見ているよりほかなかった。

鉄之丞は、高僧が、得度の授戒でもするように、厳粛な顔つきをして、剃刀をうごかしていたが、半分ぐらいまで剃って、きれいな大坊主が出来かけると、誰か、くすッと笑った者があった。

(誰だ)

と、咎めるように、鉄之丞の眼が睨めまわしたが、誰も、笑っているどころか、八十三郎も、照子も俯向いたきり、すすり泣きを洩らしているのである。

ふと、気がつくと、笑っているのは、本人だった。