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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二

「金は……」と、首をちぢめて、「ない、ない、ないの内大臣。あはははは、今夜あ、貴公たちが、おいどんに、奢ってもよか!」

このごろ、江戸で流行る、薩摩ッぽうの口真似をして、仰向けに、ころがった。

二

「とんでもない奴だ」

「喰わせ者め」

書を売るか、蚊帳でも質に入れたくらいな小遣いで、泳ぎに来た連中である。庄次郎が、無一文だと聞くと、おぞ気をふるッて、逃げだした。

「人間て、わからぬものだ」

しがらき茶屋を出て、ボロ袴を風になびかせながら、その五、六名は、首を振って歩いていた。

「近頃、石川主殿の娘を娶って、どんなに、納まっているのかと、今日も、道場で土肥のうわさをしていたのに」

「あんなのは、女房を娶ってから、得て、タガのゆるむものだ」

「すると、吾々は、たしかな方だな」

「オイ」

一人が、思いだして、

「この夏、渋沢から借りた空財布、誰が持ってるか」

「俺が、持っている」

「出してみろ」

「あれには、渋沢の印形と、書附が入っているので、中実は、空っぽだが、捨てずにいるのだ」

「それそれ。そいつを、この際、庄次郎の負債へ一任してしまうがいい。貸してくれ」

しがらき茶屋の横の窓から、そっと、覗いてみると、置き残された庄次郎は、仰向けになったまま、高いびきをかいて寝ていた。