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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
四
榊原はあわてて拾い取って、土蔵の外へとびだした。
「仲居、仲居」
手をたたいて、そして云った。
「流しの奴が、気が狂った。河原へ抛りだしてくれ」
もう、踊りながら土蔵の外へ出て来ている。時々、げたげたと笑うのだった。河原へ抓み出されると、早速、水をばちゃばちゃさせて、また笑っていた。
「お里、窓の戸を閉めろ」
健吉は、風邪薬をのんで、蒲団を被った。
四
危険だから一人で外出はするなと固く注意されている八十三郎だった。しかし、表の取次から、兄だと聞かされて、半信半疑ではあったが、長屋門を出て行った。
いま、この長州屋敷には、長藩以外の浪士も、何十人か蟄伏している。すでに禁門衛兵として、また京都守護職として、会津の前駆が乗りこんで来ている折でもあるので、門鑑は厳重をきわめていた。
「面会人は、どこにいます」
「土肥氏か。中へは、入らんで外に立っとる」
「ちょっと、外出します」
通用門の外へ出る。
左右を、見廻していると、物蔭から走って来た露八が、
「弟っ」
「おお」
二人は、しがみついた。
「あっちへ行こう――」
濡れた眼を、肱でこすりながら、露八は、八十三郎の手を引っぱった。