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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

河豚

一

「拙者の糺明させたのは、七名です。一イ、二ウ、三イ、四ウ……」

暗やみの頭数をかぞえていた。桂は、唇のそばに手をかざして、遠方の隊士へ、

「おいっ、提灯っ、提灯」

と、呶鳴った。

河豚

一

明りが、倉の中を照らした途端に、桂は桂で、茫然たるばかりに驚いてしまったし、露八はまた、まるで迷子が親にでも会ったように、彼の胸へ、しがみついてしまった。

「どうしたのだ一体――」

訊かれると、吐け口を開けられた下水のように、露八は、一昨日の晩からの苦しみだの、不平だの、恨みだのを、いちどに、桂が相手のようにぶつけて云った。

「そうか、うん、そうか」

桂の返辞が、あまりに軽いので、露八の鬱憤は、なお出てきた。

「うん、そうかも、ねえもんだ。お前さんとは、吹矢の一件以来、馴染だが、これだから、長州ッぽだの、薩摩ッぽは、気にくわねえんだ。罪科もねえ人間を、寝床から縄にかけて、調べもせず、叩っ込んでおくのが、下々のためのご改革けいっ。こんな悪政が、ご一新なら、俺たちは、真ッ平ご免だ」

「露八、露八」

桂は、閉口そうに、彼の昂ぶる肩をかろくたたいて、

「これ、やめんか」

「やめねえ」

まったく、やまらないものが、露八の体を燃やし、露八の首を振り動かしているのだった。