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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

藍花畑を見れば、花の美よりも先に、何貫目と数字を出すし、空地を見れば蒔く麦を考え、山を見れば植林を云う。

(大した男だ)

露八は、ある意味では感心し、ある意味では蔑み、だんだん一緒に歩くのが嫌になってきた。

また、しきりと国事を語る。

ナポレオン一世がどうの、イギリスの阿片政策がどうの、パークスがどうのと、しばしば、露八には相槌の打てない話題にも話がとぶ。

王政復古――幕府はもう永くない――ご一新は近い、となると渋沢の顔は、柔和な眼も、痘痕の一つ一つも、野心そのものに熱をおびて、

「これからだぞ、君」

露八のぼんやりを醒ますように云った。

「そうだ」

露八も、云わざるを得なくなった。また、そんな気もしてくるのだった。

しかし露八は、いくら渋沢に心服してみても、ただ一つ、あぶないものだと懸念したのは、渋沢の信念が、どこまでのものだかという点だった。こういう頭のいい、理性のととのった男が、果たして、実際にのぞんだ場合――国家のため――という以外何もなく、さらりと、若き白骨になれるかどうか?

(そこへゆくと――弟の奴は……)

彼は、無口な八十三郎の行く手に、骨肉的な――死なしともない不安さを多分に抱いた。