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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

街の松並木を、横切って、何かの堂閣が透いてみえる冬木立の雑木落葉を敷いて坐った。

「おいっ」

「兄上」

二人はまた、そこで、手と手を握り合ったまましばらく言葉もなく嗚咽した。

思い出したように、露八は、落葉の上に畏まって坐り直した。手をついて、

「おまえに、謝ることがある」

「何ですか」

「浜中屋の船でおまえが江戸を脱した晩、おれは、同じ船にいた。酒をのんだので、馬鹿ふざけをして」

「そんなこと!」

打ち消して、

「それよりは、父上の死をご存じですか」

「聞いた」

「父を殺したのは拙者です。拙者こそ、兄上に、蹴られても打たれても、お詫びの償いのない不孝者です」

「ばか云え。父の死は、俺の身を持ちくずした道楽が因だ」

「いや、拙者の罪です。そのかわりに、八十三郎の身命は、国事にささげる覚悟です」

「気をつけろ。弟。――俺は、それについて、おまえに知らせに来たんだ。叔父の友人、人斬り健吉が、京都へ来ている」

「ほ」

「逃げろっ。ここにいては、あぶない」

「はははは」

露八が張合い抜けするほど八十三郎はあたり前な顔をしていた。

「大丈夫ですよ。兄上」

「ばかをいえ。あれの無鉄砲と、腕前を、おまえはまだ、知らないのだ」