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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
花見に行って、蹴つまずいて死ぬ奴すらある。河豚を食って中ったと思や、諦められねえことはねえさ」
「なるほど」
「ちょうど、今夜は雪だ……」
しゃべっているうちに、露八は、七人の顔がすこし明るくなったらしく認めた。そして、自分も何かしっかとした肚がすわって、どんな恐怖でも、もう笑い飛ばせると信念して来た。
「雪だあ、兵隊さん、ここに、河豚鍋があるつもりでよ、よいかね、鰭酒もある、女もある、……と仮に思うんだ」
一人一人を、荷梱の上に、腰かけさせた。そして、自分も、荷の上に、胡坐を組んだ。
「さ、酔おうじゃねえか」
酒を酌ぐ真似をする。
酔うまねをする。
この倉の中に、切腹を云い渡されて、糺明中である七人の兵は、一時は、ちょっと彼のことばに、生死の達観を見かけたが、すぐ、悲しい顔をしてしまった。
(こいつあ、気狂いだ!)
二
雪の埠頭に着いた薩摩の艦から、夕刻、すぐ上陸して、五藩の諸士に警固されながら五挺の駕をつらねて、桜山の春帆楼の宴に向かったのは、禁門の乱の後、流転していた七卿のうちで、筑前の太宰府に潜伏していた三条実美以下の五卿であった。
京都の政情が、一変したためである。