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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二

「私が、お連れしてあげるよ」

立って、もう、帯を締め直していた。

「いいよ、お喜代をやるから」

「だって、喜代ちゃんは、夕方の支度があるし、どうせ私は、出戻りの厄介女――それぐらいな用はしなければ……」

「してくれるはいいが、またあとで、姉さんに、当たられたら、恐いからね」

「働けば、ああいうし、何もしなければ、しないというし……」

「じゃ、お願い」

お里は、二階へ上がってしまった。

「喜代ちゃん、下駄を貸しておくれ。私の……もうはけないから」

お喜代は、自分の下駄を貸すのが嫌だった。聞こえないふりをしていた。

「嫌なの!」

甲高く云われて、

「出ていますよ――そこに」

二

なるべく、離れて歩こうとしても、お蔦はぴったりと寄って歩いた。

そして、いろいろ、問わず語りに聞かせるのだった。

自分たち姉妹三人が、みんな不倖せだというようなことから――始まって。

父は、二世荻江露友といって、江戸唄の豊後節からわかれたこの流派では、名人だったが、安政の大地震で、亡くなるし、母もないし、男の兄弟は、やくざで、一人は兇状を食らって、遠島にいっている――などということまで、隠さないのである。