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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
「庄さんも、偉うならしゃれたのう」
「いい跡継じゃ、半蔵殿も、お倖せなこッちゃで」
褒めそやしたり、
「めでたい晩じゃほどに、どなたか、謡いなされよ」
椎茸たぼが、酔って、はしゃぎ初めたり、和気藹々である。
父の半蔵は、自慢やら、吹聴やらで、
「わしの子にしては、庄も、まず上出来の方じゃ。免許皆伝という腕のもち主となると一ツ橋家にも、何人もおらんでのう。やがて、お召出しになろうし、わしも、藩邸で肩身がひろいぞよ、のう、鉄之丞」
「そうとも、そうとも」
叔父の小林鉄之丞も、その夜は、べろべろに酔っていた。酔わないうちは、庄次郎をつかまえて、皆伝の目録を見せろとか、賞状を見せろとか、云っていたが、そのうちに、忘れてしまって、都々逸坊扇歌の真似などして、皆を笑わせていた。
「そうじゃ、こう、内輪の者が集まることも、滅多にないで、今夜は、わしから半蔵に、云わにゃならぬことがある」
「なんじゃ」
「庄次郎、何歳になるの」
「当年二十七歳じゃが」
「なぜ、はよう嫁をもたせんのか、ちと、半蔵殿、量見がわるかろうぞ。二十七にもなって、遊びもせぬ、女房も娶らぬ、それじゃ、まるで片輪者じゃわ」