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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
三
「誰しも、吉い日を選ぶとみえましてな、今宵は、こちらへ参る途中で、四、五軒も高張提灯を見うけましたよ」
そんなことを、話しながら先に歩いて行く。
琵琶橋の袂に、灯を寄せて、佇立みながら、花嫁の列を、待っていたが、なかなか来ない。
「どうしたのか?」
媒人は、そろそろ心配顔に、
「父も娘も、物堅いので有名な石川家のこと、間違いはあるまいが、それにしても……」
と、眉がくもる。
遅い。約束の時刻は、よほど過ぎている。媒人などはするものではないと悔いているらしいのである。鉄之丞も、焦々していた。
すると、
「や、見えました」
中間が、橋の袂で、どなる。
「ほ、来たか……」
愁眉をひらいて、人々は、上水の川尻へ眼をやった。大曲の方から、川端を、悠長に練ってくる一列の提灯と駕とが、それらしく見える。
「なるほど、あれでは、暇どるはずじゃ」
「だが、紋は」
「鷹の羽、丸に鷹の羽」
三
花聟は、床の間の松竹梅を後ろにして、固くなっていた。ふだんの庄次郎とは、別人のように見える。張子の虎みたいに重そうな首をして、耳たぶが、充血している。
嫁の輿と、嫁方の人々とが、土肥家の九つの部屋を溢れさせた。